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サイト掲載日 2017年02月06日

「非常事態における角膜屈折矯正手術の有用性:SMILE」について名古屋アイクリニックの中村院長がまとめていますので、参考になさってください。

非常事態における角膜屈折矯正手術の有用性: SMILE           名古屋アイクリニック 中村友昭

1)はじめに
戦場や災害時など非常時においては、視機能が生存に深く関わることはよく言われている。事実、昨今の大震災、とくに早朝に起こった阪神淡路大震災の折には、眼鏡やコンタクトレンズが手元になく、強度の近視の方は命の危険に晒されたことはよく知られている。さて、このようなことを鑑みると屈折矯正手術の必要性や価値があらためて浮き彫りになる。代表的なレーザー屈折矯正手術はLASIKであるが、非常事態における外傷など強い外力を想定すると、術後長期経過した時点でも若干の不安を残す。それに対し新しい概念の屈折矯正手術であるSMILE (Small Incision Femtosecond Lenticule Extraction)は、LASIKに比較し10%程度の最小2ミリの切開創から手術を行うことができ、いわゆるminimum invasive surgeryであるため、外力に強いことが証明されている。

2) SMILEについて
SMILEは2010年、Carl Zeiss Meditec社(以下CZM社)により開発され、現在はCZM社のフェムトセカンドレーザー(以下FSレーザー)VisuMaxのみで行うことができる。角膜実質をエキシマレーザーによって蒸散させて切除するのではなく、FSレーザーによって光切断し、レンチクルとして摘出することにより屈折矯正を行う。ドライアイになりにくい、術後屈折が安定している、夜間視機能も優位など多くの利点が挙げられるが、中でも切開創が小さいことにより外力に強いことが最大の利点と思われる。
2016年現在、62ヶ国400施設700人以上の術者によってSMILEが行われており、実績数は600,000眼以上と報告されている。

3) SMILEの得失について
1. 利点
① FSレーザーのみでレーシックが行える(経済性)
② エキシマレーザーに比べて温度・湿度など環境による影響を受けにくく、常に安定した矯正が行える(独自のノモグラムは不要)
③ フラップを作らず実質切除が行われるため手術が短時間で終了する
④ フラップに起因する合併症が皆無
⑤ レーシックに比べ角膜の知覚神経が温存できることからドライアイになりにくい
⑥ 角膜のバイオメカニカルな強度が保たれるので、術後屈折が安定しており、強度な近視への対応も期待できる
⑦ 切除効率のばらつきが無く、狙い通りの3次元的形状で切除できるため、角膜のProlate形状を比較的保つことが可能となり、術後の収差に優位である
2. 欠点
① 視力回復がやや遅い
② 現時点ではCZM社のFSレーザーでしか行えない
③ 追加矯正がやや難しい
④ 遠視、老視への対応がない
⑤ ウェーブフロントなどCustom照射ができない
⑥ サイクロトーションへの対応がない

4) 外力に対する強さ
通常のLASIKのフラップは切開創が約20㎜であり、何年経過した時点でも、フラップが一体化することはない。外傷によるフラップのずれに関しては多くの報告がなされている。それに対しSMILEの切開創は最小で2㎜であり、フラップを作らないため、外力によりずれる心配はない。また、以下に示すように、バイオメカニカルな観点からもその強度に関し様々な研究がなされている。
① 切開法の差による検討
角膜において、垂直断は水平断より強度への影響は大であることが、Knoxらによって、摘出人眼の研究により明らかにされた1)。すなわち、LASIKのフラップ作成において、その切開の深さに応じて角膜強度は減弱するが、サイドカット(垂直断)だけでもその減弱の度合いは同様であり、水平断だけ行った場合強度はあまり減弱せず、さらにその強度は深さに依存しなかった。このことより、ほぼ水平断のみでサイドカットをほとんど行わないSMILEにおいては、深さに関係なく強度が保たれることが予測される。
② 角膜実質の深さごとの強度へ及ぼす影響
角膜実質の前部層は後部層より強度がある。すなわち前部40%は最も強い層であり、後部60%の強度は前部の約半分くらいであることがRandlemanらによって実証された2)。このことより、強度のある実質前部層をほとんど傷つけず、実質のやや深いところのみを切除するSMILEは、PRKやLASIKに比べて角膜強度は保たれることが予測される3)。
③ 各種検査による検討
 以上のことを臨床的に実証できるとよいが、現在のところ客観的に評価可能な器械がないのが実情である。Ocular Response Analyzerによるcorneal hysteresisやcorneal resistance factorでの比較検討の研究がなされている4)-8)が、LASIKとSMILEとの間に有意差を実証するには至っていない。しかし、理論的にその強度に差があることは、間違いないように思われる。

参考文献
1) Knox Cartwright NE, Tyrer JR, Jaycock PD, Marshall J: Effects of variation in depth and side Cut angulations in LASIK and thin-flap LASIK using a femtosecond laser: a biomechanical study. J Refract Surg 2012, 28:419–425
2) Randleman JB, Dawson DG, Grossniklaus HE, McCarey BE, Edelhauser HF: Depth-dependent cohesive tensile strength in human donor corneas: implications for refractive surgery. J Refract Surg 2008, 24:S85–S89
3) Reinstein DZ, Archer TJ, Randleman JB: Mathematical model to compare the relative tensile strength of the cornea after PRK, LASIK, and small incision lenticule extraction. J Refract Surg 2013, 29:454–460.
4) Kamiya K, Shimizu K, Igarashi A, Kobashi H, Sato N, Ishii R: Intraindividual comparison of changes in corneal biomechanical parameters after femtosecond lenticule extraction and small-incision lenticule extraction. J Cataract Refract Surg 2014, 40(6):963-970.
5) Wu D, Wang Y, Zhang L, Wei S, Tang X: Corneal biomechanical effects: Small-incision lenticule extraction versus femtosecond laser-assisted laser in situ keratomileusis. J Cataract Refract Surg 2014, 40(6):954-962.
6) Reinstein DZ, Gobbe M, Archer TJ: Ocular biomechanics: measurement parameters and terminology. J Refract Surg 2011, 27:396–397.
7) Goldich Y, Barkana Y, Morad Y, Hartstein M, Avni I, Zadok D: Can we measure corneal biomechanical changes after collagen cross-linking in eyes with keratoconus–a pilot study. Cornea 2009, 28:498–502.
8) Touboul D, Roberts C, Kerautret J, Garra C, Maurice-Tison S, Saubusse E, Colin J: Correlations between corneal hysteresis, intraocular pressure, and corneal central pachymetry. J Cataract Refract Surg 2008, 34:616–622.